風通とは

組織の名前と織物の名前

 「平」「繻子」「綾」などの名称は、組織(織り方)としても織物(仕上がった布)としても使用されます。同様に「風通」という言葉が組織を指すのか、織物を指すのかは明確に区別して考える必要があります。

風通(織物)の定義

 風通とは、経糸と緯糸にそれぞれ2色(仮にA色とB色とします)を交互に配置した、経緯二重組織の織物です。この織物では、以下の2種類の平織りが使用されます。
①<経A-緯Aからなる平織り>が表に出る部分
②<経B-緯Bからなる平織り>が表に出る部分
 これらを組み合わせることで模様を表現するのが、風通(織物)の本質です。模様は裏表で色が反転し、代表的な模様として市松模様があります。風通の織物は、ドビー織機や手機でも織ることができ、細かい模様の場合はジャカード織機が使われます。

広義の風通(織物)

 風通は狭義では、上記の様な織物を指します。しかし、広義では同じ様な組織や効果を持つ織物全般を含みます。以下に具体例を説明します。

筒状の風通(織物)

 模様を出さずに、表を<経A-緯Aの平織り>、裏を<経B-緯Bの平織り>だけとすると筒状の織物に仕上がります。A色とB色が異なる場合は、表はA色、裏はB色となり、A色とB色が同じである場合は、1色の筒状の織物になります。この構造は両脇の縫製が不要であるため、ホースや沪過布などになどに使われます。また、この筒状の織物を片側で切り開き広げると、織り幅の倍の幅を持つ生地にすることが可能です。

他のバリエーション

・平織り以外の組織を使用する
・色ではなく異なる素材を使用することで独自の効果を出す
染色性が異なる素材を組み合わせた場合、染め分けによって模様を際立たせることができます。例えば、アセテートとレーヨンで風通を設計した場合、分散染料と直接染料で染め分けられ、後染めでの生産も可能です。また、異素材を組み合わせせた場合、その素材の収縮率の違いを利用して、織物に立体感を持たせることも可能です。

風通の応用例

 応用例として、風通の袋状の構造を利用して、内部に別の素材を詰め込んだデザインの織物がありますし、二重のストールなどにも風通は使われています。

風通の組織図と構造

 風通の組織図として、<経A-緯Aからなる平織り>が表に表れた組織だけが、書かれていることがありますが、それだけでは風通の構造を十分に表していません。風通の構造は、表面を<経A-緯Aからなる平織り>から<経B-緯Bからなる平織り>に切り替えることで模様を表現します。この切り替えによって、模様は裏表で色が反転した同じ模様となります。
「反転した同じ模様」と聞くと「昼夜組織」を連想しますが、「昼夜組織」は、ある組織とその裏の組織が市松模様の様に配置されるのに対し、風通では表と裏が完全に同じ模様になる点が大きく異なります。必ずしも風通は市松模様にする必要はありません。
 さらに、織物の断面図では、どの部分で組織が切り替わり模様になるのかが十分に表現されていないことがあります。これらを正確に示すことが必要となります。

風通のデザイン

 白黒のデザインを<経A-緯Aからなる平織り>と<経B-緯Bからなる平織り>に対応させることで、風通のデザインを設計することができます。ただし、<経A-緯Bからなる平織り>と<経B-緯Aからなる平織り>の組み合わせを使用すると、A色とB色が混ざり、模様が目立たなくなるため、通常は避けられます。

風通の語源

 「風通」という名前は、生地の間を風が通り抜けることが語源と言われますが、模様を持つ風通では、風は通りません。むしろ、袋状の構造がいくつも連なるイメージです。そう考えると、もともと風通は、風が通り抜ける筒状の風通だけを指していたのかもしれません。

初稿2025/01/11