はじめに
電子ジャカードとダイレクトジャカードの区別が、はっきりと認識されていないことが多いようです。特に電子ジャカードでないものを機械式ジャカードだけと考える人が多いように思えるので、整理してみました。
ダイレクトジャカードの仕組みと利点
ジャカード装置には、柄を作るために綜絖を上下させる「たて針」があります。この「たて針」は「紋紙」と「よこ針」によって制御されています。「紋紙」に記録された情報は、物理的に「紋紙」から「よこ針」を経て「たて針」に伝わります。この「紋紙」の情報をFD、HDD、USBメモリなどに記録し、その情報から「たて針」を制御する方法が考え出されました。「紋紙」と「よこ針」の役目を果たす装置のことを「ダイレクトジャカード」または「直織り」と言います。
ダイレクトジャカードは、既存のジャカード織機に付設できることが大きな利点です。さらにデータがデジタル化されることで、①データの訂正が楽、②データの保存場所が小さくて済む。(意外と紋紙は容量が大きいものです。)などの利点が生まれました。加えて、紋紙の入れ替えは、足場の悪い高所で作業しますが、紋紙を使用しないことにより、この作業が不要となり、省力化・安全性が向上しました。
デジタルとアナログの融合技術
つまり、「ダイレクトジャカード」とは柄を表現するデジタルデータを用い、アナログな装置の動きで、機械式ジャカードを制御する装置です。デジタルデータをわざわざ、アナログな物理動作に置き換えています。見方を変えると、デジタルからアナログへの変換装置です。今でいうとスマホで物理的にスイッチをON―OFFする機械(例えば:サンワサプライの「SwitchBot」)と同じ概念ではないでしょうか。
電子ジャカードの登場と機械式ジャカードとの比較
ダイレクトジャカードが開発されたのち、直接、「たて針」を制御し、「よこ針」がない機構を持つニードルレス機構のジャカードが開発されました。これを電子ジャカードと言います。これに対して、これまでのジャカードを機械式ジャカード(あるいはメカニカルジャカード、メカジャカード)と区別するようになりました。
(調べてみると、ダイレクトジャカードは1984年に発明、電子ジャカードは1987年に発明とあります。開発されたのちと書いてしまいましたが、ほぼ同時期と考えても良いかもしれません。)
「デジタル化」の実現と開発当時の電子ジャカード
ダイレクトジャカードは機械式ジャカードを活かすための過渡期の技術ではなく、注目すべきは、柄のデータをデジタルで扱うことは、すでにダイレクトジャカードで行われていることです。言い換えれば、「デジタル化」は電子ジャカードでなくダイレクトジャカードによって実現されていました。
また、今の機械は問題がないと思いますが、開発された当時の電子ジャカードはそれほど優れたものではないように記憶しております。さまざまな機構で針を上下させていましたが、数多い針の一部がうまく動かないことが多かったように思います。ばねと電磁石を利用した機構はひどいもので、動かすたびに一部の針が落ち、苦労させられました。
ダイレクトジャカードの現状と課題
このように繊維産業のデジタル化に貢献した「ダイレクトジャカード」ですが、現在は、直織りのメーカーが手を引き始め、いつまで装置のメンテナンスが続けられるのかは不明な状態です。
三種類のジャカード装置の特徴比較
「ダイレクトジャカード」は機械式ジャカードを制御するもので、外から見ると紋紙を使用しません。それでいて、電子式ジャカードでないものです。「ダイレクトジャカード」という概念がないと、これらの区別はなかなかできないのかもしれません。三種類のジャカード装置の特徴を表にまとめます。
紋紙 | 柄データのデジタル化 | 紋紙の切り替えなどの高所作業 | よこ針 | |
メカニカルジャカード | あり | 対応なし | あり | あり |
ダイレクトジャカード | なし | あり | なし | あり |
電子ジャカード | なし | あり | なし | なし |
デジタルとアナログ混合の時代
補足として、昔のことを書いておきます。柄づくりにおいては、手書きの画像をスキャナで読み取り、コンピュータ上で修正する場合もありましたし、はじめから柄をパソコン上で作成する場合もありました。デジタルの柄データを制御データに変換して使用することもありましたし、専用の機械で紋紙に穴を開けて使用もしていました。まさにデジタルとアナログ混合の時代でした。
2025/06/21
