引張試験の課題解決:湿潤状態と粉体飛散への対応策

 引張試験を湿潤状態で実施する際、試料をビニール袋に入れた状態で試験を行ったことがあります。この方法は、試料が濡れた状態で試験を行いたい場合に有効です。

湿潤状態での試験方法:JIS法と独自の工夫

 一方で、JIS規格ではこの方法は採用されていません。引張試験については、JIS L 1096:2010の8.14.1「引張強さ伸び率試験(JIS法)」に基づき、以下の4つの方法が定められています。

  • ストリップ法
    • 標準状態(湿潤していない)の試験:A法 
    • 湿潤状態の試験:C法 
  • グラブ法
    • 標準状態(湿潤していない)の試験:B法 
    • 湿潤状態の試験:D法 

 湿潤状態の試験方法(C法およびD法)では、試験片を1時間以上水中に沈めた後、水から取り出し、1分以内に測定を行います。なお、使用する水については「水」と記載されていますが、試験では蒸留水やイオン交換水を使用することが多いと思います。

 JIS法に基づく試験では、破断時に水が飛び散ることがあるため、前述の試料をビニール袋に入れる方法は実用的であると思います。JIS法に準拠する場合、試験後、チャックでは金属部分を取り外し、水で洗浄、よく拭いて、油を吹き付けて乾燥させます。試験機の周辺では、キムワイフ等で拭き取ります。これらを怠ると錆びる危険があります。(どうしても、JIS法にこだわりたい場合は、「JISを参考」と記載しまう手があります)

粉体飛散試料の安全対策と実用例

さ らに、破断時に細かい粉体が飛び散る試料にもビニール袋を用いる方法は有効です。例えば、以下のようなケースが該当します。

  • 試料がフィルターなどで、細かな物質を吸着している場合 
  • 試料が導電性を持ち、破断時に細かく割れてしまう場合(例:炭素繊維など)

試験精度と安全性を高めるためのポイント

 特に導電性の細かい試料が飛び散ると、電子機器にショートを引き起こす可能性があります。このような場合、試験機の近くに掃除機を設置し、試験中に作動させる方法も考えられます。ただし、飛び散る物質の大きさによっては、掃除機の排気から物質が漏れ出し、結果的に周囲に拡散してしまう可能性があるため注意が必要です。

 引張試験は、基本的な試験ですが、試料によっては、様々な工夫が必要な試験です。

補足:

(1)「湿潤試験」の広義の定義には、水だけでなく、薄い酸やアルカリ溶液への浸漬も含まれます。

(2)試料を水に浸漬した状態で引張試験を行えるようにするオプションも存在します。

初稿2018/03/31 2稿2025/05/17

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