パソコンによる引張試験機の制御方法

試験機のパソコンによる制御

 引張試験機は、様々な試験(例えば、引張強さ試験、引裂強さ試験、滑脱抵抗力試験など)に対応できます。*1) さらに、パソコンで制御できるようになって、手軽に設定ができるようになり、その設定を記録できる様になりました。これがパソコンによる制御の最大のメリットで、特定の試験の制御条件を記録しておけば、簡単にその試験を行うことができます。
 例えば、各試験の細かな設定(所定の強度まで引っ張る、所定の距離まで引っ張る)などを記録できます。

引張試験機で可能な試験の例

1)引張試験機は「万能試験機」ともいいます。universal testing machineの直訳。試験機の型番に「UTM」が付くのはその名残りです。

滑脱抵抗力試験の設定

 49.0Nの荷重を与える滑脱抵抗力試験では、①49.0Nまで引っ張る。②49.0N時に停止。③反転させ元の状態に戻す。という制御を行います。これらの条件を記録して、「49N滑脱」と名前をつけて保存しておけば、誰でも簡単に試験ができるようになります。
 一方、教育的配慮からは、これでいいのかと思う時があります。ある特定の試験は簡単にできますが、JISの規格を少し変えて行う試験 *2)への応用力がなくなりそうです。

滑脱抵抗力試験の設定のコツ

 付け加えておくと、49.0Nの滑脱試験では、50Nのロードセルを使用しないのがコツです。49.0Nを超えた時に、すぐに試験機を停止させられず、50Nを越えてしまうこと*3)が、まれにおこりえます。この場合、50N以上になると試験機のリミッターが働き、試験機が停止してしまいます。こうなると試験機の再起動が必要で手間がかかります。それを避けるには、50Nではなく、それより大きい(例えば100N)ロードセルを使用します。
 また、これは、変形しやすい生地で、短時間で荷重が変化する場合に生じやすい現象です。

JISで定めた試験条件を変えて試験を行う

2)JISで定めた試験条件は、すべての試料に対し、ベストとはいいがたい場合があります。その時は、条件を一部変えて、より望ましい試験を行うことが必要です。
 その条件の変更の度合いに応じて、
 ①JISの試験に準拠(ただし、以下の条件とした・・・・)
 ②JISの試験を参考
などと表記して試験を行います。全く新しいやり方でなく、JISで定めた試験機を使う理由は、別の試験機関での追試験をやりやすくするためです。研究であれば、試験方法の検討から始めるのもいいですが、依頼試験の目的は、「一定コスト内で工業製品の適切な評価を行うこと」と考えています。そのため、ベストな評価を見つけることではなく、今、ベターでもいいので評価することが、依頼試験にとって必要なことと考えています。

3)オーバーシュートともいいます。要は「急には止まれない」ということです。

刺繍をした生地の引裂強さ試験

(例)刺繍をした生地の引裂強さ試験「JISL1096引裂強さA-1法(シングルタンク法):引き裂いた間の最大果荷重を【引裂強さ】とする」

刺繍をした生地から引裂強さ試験用の試料を作成した例

 このケースの場合、地の部分よりも刺繍部分の方が強くなります。図のb)より図のa)の方が引裂強さは大きくなります。
 JISの規格通り行う場合、試料はランダムに採取しますので、引き裂く部分に刺繍があるかいなかで、測定値に大きな差が生じます。そのため平均値をとっても意味がないと思います。
 着用時では、刺繍のない地の部分で、生地が引き裂かれることが考えられます。それを適切に評価するために、刺繍部分のない試料を用いて試験を行う方法や、試料の引き裂き部分が刺繍部分にかからないように、引き裂く距離を決める方法が考えられます。この場合、サンプリング方法や引き裂く距離をJISの規定通りにしない方が、試料をよりよく評価できるという判断をします。

初稿2017/04/30 改正2020/09/01