これは、雑談から湧き出たテーマですが、極めて本質的な問題です。結論は出ませんがいろいろ考えてみました。(ここで、絵は織物の柄になる「元絵」、それを織物が織れる様に作り直した画像を「意匠図」、織機に柄を織らせるデータを「紋紙データ」とします)
機械学習とデータ
昨今のAIの状態から予想すると、上記の問題は、学習させれば、原理的には可能だと思われます。つまり、機械学習という手法と、実例のデータがあれば、可能であると言うことです。
ただし、参考になるデータはネット上には皆無ではないでしょうか。そのため、織物工場の過去の実例データを学習させる時間/手間が必要となると思われます。
AIの使用条件の契約方法によっては、自分で用意したデータで学習させ、自分の使用したデータを他人には学習させない条件で使用することができる様になってきていますので、実現可能な気がします。すると、紋紙データ作製ソフトは不必要になるのでしょうか?
創造かルーチンか
そもそも、元絵から、どの様なコンセプトで、生地を設計していくのか? つまり、元絵から意匠図を作る工程は、ルーチン作業なのでしょうか、それとも創造なのでしょうか?
例えば、元絵に描かれた形の境界線を求めて、組織を分けます。その分けた部分を、全く違う組織にするのか、風通の様に裏表の組織とするのか、朱子組織で経出し朱子、緯出し朱子とするのか、それとも、帯の様に緯糸でガラを出していくのか?
これらのことを人は、創造的にやっているのか、それともルーチンをやっているでしょうか?
ここで、人の創造性とは何かが問われると思います。ルーチンで行っているのであれば、AIに置き換えることが可能で、名人芸的な調整(さじ加減)が必要であっても、将来的にはそれすら学習できると予想できます。ジャカード織物の中には、元絵を変えても柄の表現が変わらず、ルーチン的にやっているだけであろうと思われるものもありますので、余計なことを考えてしまいます。
それとも、元絵に合わせて、知恵を入れ、様々な判断を経てから意匠図が創造的に作製されるのでしょうか?
コンピュータ支援設計
その昔は、元絵を手作業で意匠図を作製していました。その次の段階として、コンピュータを用いて意匠図の作製を行う様になりました、その当時のソフトはCAD(computer-aided design コンピュータ支援設計とも訳される)という概念で、あくまで、人が楽になる様にコンピュータ側の支援です。初期は元絵をスキャニングして、その画像データをコンピュータで扱っていましたが、最近は絵をはじめからコンピュータ上で扱うことが多い様です。このCADのお陰で、絵心のない人でも、かなり簡単に意匠図を作製することができる様になりました。
また、意匠図や紋紙データを作製する専門の企業以外に織物工場の一部門でこれらのことができる様になりました。
さらにこれは、注目すべきは、新しいアイディアを試すことが容易になりました。例えば、写真織りはCADの支援で一般にできる様になったと思います。
AIは人の仕事を奪わない
この部分を見ていると、コンピュータは、「仕事を奪わない。人の仕事の高度化を支援する。」となっています。一方で、意匠図や紋紙データを作製する専門の業種とは手数料の折り合いがつかないこともありました。
同様にAIを考えると、AIは、「仕事を奪わない。人の仕事の高度化を支援する。」といえますが、金銭的には、不利になる業界/業種は存在します。
ただ、前述のCADの場合は、当時のPCは高価で、だれでも買えるもではありませんでした。一方、AIの時代では、その導入コストがすごく安く、影響を受ける人はかなりいる点が異なると思います。
また、アイディアを試すことが容易になり、専門でやっていない人が、AIの支援をえて、新しいことが生まれることが予想されます。
意匠図から紋紙データへの変換
次に意匠図から紋紙データへの変換を考えます。
一般にデータAからデータBに変換は、①1:1対応、②逆変換が可能かと考えます。
紋紙データへの変換の仕様は、データAに情報Cが加わり、データBに変換されるものです。情報Cとは、針案内などを指しています。ジャカードメーカーが定めた仕様ではなく、ユーザーが設定した情報となります。この情報Cがないと逆変換できませんし。これが同じであれば、1:1の対応になると思います。
変換を学習すれば、どの様な変換もできる未来
一般的に画像Aを画像Bに変換する有料ソフトのフィルターがある場合を考えます。
最初に有料ソフトで、実例をかなりの数を学習させれば、AIだけで、画像Aから画像Bを作り出せる様になり、将来的には、有料ソフトが必要でなくなるのでしょうか?
例えば、人の写真を見せて「背景をぼかして」と指示するだけで新しい画像に直してくれる世界がやって来るのでしょうか?
「消しゴムマジック」というアプリがあります、これがポピュラーになり、十分にデータ量が多くなれば、勝手にまねしてくれるという世界がやってくるのでしょうか?
初稿2024/07/20