紡績糸の双糸がよく使われますが、その撚数はどのくらいが適正なのでしょうか?
下撚り、上撚り
昔の文献で、綿の地撚りとそれを合わせて双糸を作る時の撚数の一覧を見つけました。
単糸だけを話題にする場合は、紡績糸を作るための撚りを、地撚り〔じより〕、紡績撚りなどと言います。双糸を話題にする場合は、双糸を作るための撚りを上撚り〔うわより〕、単糸にかかっている撚りを下撚り〔したより〕と言い分けます
以下は、上撚り、下撚りで統一します。
上撚り、下撚りのバランスが悪いと、糸にトルクが残り、糸が集まり撚りが入っていきます。いわゆる「ビリ」が出てしまいます。では、双糸としてバランスの良い撚数はどのようなものになるでしょうか?
ビリの確認方法:糸の両端を手に持ち、手を近づけます。このとき、糸が変形し、撚りが入り中央部分が縮むときは撚りのトルクが残っています。糸が集まり、撚りが入った部分をビリと呼んでいます。
糸の安定化
糸をセットし、安定化させることが一般的に行われています。今回の話題は、下撚りと上撚りの方向を逆向にすることで、バランスを取り、糸を安定化させることについてです。つまり、紡績糸はZ方向に撚って作られますので、「下撚り」がZ、「上撚り」がSとなります。下撚り、上撚りの撚数は同じではありません。それは糸の太さが違えば、撚数が同じでも、状態が異なるからです。同じ撚数でも、上撚りの方が、繊度が大きいため、撚りの効果は弱くなります。(つまり、同じ撚数であれば、太い糸の方が、撚りの影響は強いことになります。)
撚係数
そのため、バランスを取るために下撚りの方を強くします。撚りの強さは、「撚係数」という考え方があり、その考えで、糸の太さを変えたときに同じ状態とみなせる撚数を求めることができます。
イメージとしては、撚った場合に斜めに走る糸の方向(角度)が同じになると言うことです。
K = T √B
ここで、K:撚係数、T:撚数、B:番手
単位を同じにすれば、撚りの強い・弱いを相対的に評価が可能。
Kの値が書いてあるときは、使用する単位に注意。撚数は、インチ間当たりの回数の場合で示すことも多い。番手でなく繊度を用いるときは、式の形式が異なる。
S方向、Z方向の撚る力が同じになるという考え方で、双糸の上撚を計算すると、下撚の70%が適正な撚数となります。(正確には、下撚りのルート1/2倍)
ここで、単糸の番手(綿番手)をB1、(1m当たりの)撚数をT1とすると、撚係数はT1 √B1、
双糸の番手(綿番手)をB2、(1m当たりの)撚数をT2とすると、撚係数はT2 √B2
これらの撚係数が等しいとし、B2=B1 /2(双糸は単糸の2倍の太さ)
T1 √B1 = T2 √B2
〔T2/ T1〕= √(B2/ B1) = √(B1×1/2 / B1) = √(1/2) ≒ 0.7
様々な人から聞いた話をまとめると、「双糸の上撚りは、下撚りの60%から80%ぐらい」です。実際に、双糸を分解して、撚数を求める際の誤差は1割から2割ぐらいにはなってしまいますので、大体、上述の範囲に入っています。もちろん、すべての太さの綿糸で撚りの係数が一定とはなりませんので、あくまで、考え方の一つということになります。
双糸以外の場合
また、この方法で11本撚りを考えると、上撚りの値はすごく小さな値になります。ある程度の撚をかけないと糸がバラバラになりますので、上記の方法は、すべての条件で使用できるとは限りません。同じ状態になると考えられる計算方法の一つとだと割り切ることが必要です。
補足
実際に適した上撚りを決めるためには、計算上の値で撚糸し、ビリの発生を確認しながら、適切な撚数を決めて行くことになります。
また、上記の表は、織物用のため、編物用では、この値よりも甘い撚りを使っていることもあるかもしれません、また、糸の風合いを変化させるために、単糸の状態で、さらに撚りをかけることもあります。(この工程を「追撚〔ついねん〕」と言います。)
下撚りと上撚りのバランスとって、糸を安定させることについて述べましたが、トルクを残しのりで固めて、生地になってからのりを落として、生地の面を変化させることもありますがそれは、別の話です。