草木染めについて 先媒染と後媒染

最近、草木染めについて気になったことをメモしておきます。

媒染の語源

 媒染の語源はドイツ語のbeizenですので、うまく漢字をあてたものです。この単語には「金属イオンを利用して草木の色目の定着と発色をうながす工程」という意味があります。

先媒染・後媒染

 媒染については、先媒染、後媒染などがあるのですが、本により使い方が異なっている場合があるので、工程の確認が必要です。

草木染めで行われる手順を以下にまとめます。

①媒染―染色[先媒染]

②染色―媒染[後媒染]

③染色―媒染―染色[中媒染]

④染色―媒染―染色―媒染―染色―媒染―染色(何回しても良い)

 ③のことを[後媒染]という言い方もあります。染色後に媒染をしているので、後媒染という言い方で間違いありません。②よりも③の方が多く使われており、③を後媒染と呼んでいることが多いと思います。さらに、②はあまり使われません。②の最後の工程は媒染であるため金属を多く含みます。これは他の色素とも反応しますので、これを反応させない(または取り除く)ことが必要です。そのため、金属を不溶化させる。または、媒染後よく洗うなどの処理を行います。②を「染色―媒染―後加工」とすれば、使用される工程です。

 さらに、金属を反応させないための簡単な方法としては、余分な金属を染色して色素と反応させます。つまり、③の工程になります。

 ④もよく使われる工程で、色が自分の望む色になるまで、重ねていきます。ただ、この場合も上述の理由で、最後の工程を染色とします。一般には、回数を増すごとにある程度までは色が濃くなるのですが、色が濃くなることと色が定着することは別問題であり、濃い色になったとしても、色が落ちてしまうこともあります。

染色ムラを避けるために

 解説書などでは、①と②を比べて、[先媒染]の方が、色が濃くなると書かれています。これは当然で、媒染すると、染料の色素との反応が良くなり、色素が余計について、色は濃くなります。これは事実なのですが、反応が速すぎると、染色ムラが生じる問題があります。そのため、色素との反応の大小を考え、原則として、絹は染色後に媒染を行い、毛は染色前に媒染を行います。綿は、濃色化の処理により考えます。また、染色ムラを避けるためには、生地を染色前に水に浸し、絞ってから入れる。染色を室温から行う。容比を大きくする。生地の撹拌方法を工夫するなどの方法も取られます。

酸・アルカリで色が変化

 色素の中には、pHによって色相が変化します。一方、媒染剤は、アルミ、鉄、銅、などの金属塩です。これらは中性とは限りません。そのため、媒染した時にpHが変わり、色が変化することもありえます。
 媒染の定義は、色の定着ですので、色を変化させるだけの場合は、「媒染」という単語をと使うべきでないと思います。つまり、pHが変化して色だけが変化すことに金属塩が使われているときは、媒染としては働いていないと言えます。この様に媒染剤であっても金属か金属塩のpHが原因であるかは分けて考えるべきでしょう。

pHについて

 その他、pHについては、植物から色素抽出の時に色素がよく抽出できる適正なpHがある場合や色素が反応しやすい、あるいは安定している適正なpHがある場合もあり、pHを調整することも行われています。草木染めは昔から行われており、この方法で行うのが良いとの情報は多いですが、その原理まで理解されて伝わっていないことが多いようです。

初稿2023/09/03