滑脱抵抗力(通称:「かつだつ」)の試験方法とクレーム事例

滑脱抵抗力の定義

JISL0208の定義によると

 ①織物を構成する糸に所定の力を加え、糸を引き抜くのに必要な力
 ②織物を構成する糸の接点部分の、引張りなどに対する抵抗の度合い
となっています。

滑脱とは

 滑脱をわかりやすく言うと、縫い目を挟んで、両端に一定の荷重を与えた場合に、縫い目部分で、糸がスリップして、ずれてしまう現象が生じます。これの現象を「滑脱」といい、「滑脱の起こりくさ」を「滑脱抵抗力」といいます。当然、密度の低い生地で生じやすい現象です。

2枚生地を縫い付け、両端に一定の荷重を与える。縫い目部分に滑脱が生じる

測定方法

 測定方法の一例としては、JISL1096滑脱抵抗力 B法があり、規定の縫い方で縫われた生地に縫い目を挟んで、両端に一定の荷重を与えた後に、縫い目部分にできるで「縫目の滑りの最大孔の大きさ」(=間隙の長さ(糸を挟んで両側の間隙の和、ただし、糸の太さ分を除く≒糸の動いた距離)を測定します。測定方向は、タテ方向、ヨコ方向おのおので行います。 

滑脱試験後の生地の例、縫い目部分に糸がスリップして生地に穴が開いている。

滑脱抵抗力の基準値

 滑脱抵抗力の基準値は、生地の種類によって異なりますが、与える荷重と、最大孔の大きさで決められます。

基準値の例をあげると 
 薄い服地:49Nの荷重を与え、最大孔の大きさが3ミリ未満
 厚い服地:117Nの荷重を与え、最大孔の大きさが3ミリ未満

滑脱抵抗力のクレーム事例

 クレーム事例としては、着用時、洗濯やタンブル乾燥時に力が加わり、糸がスリップし、縫い目部分に穴があいたり、生地が縫製部分で外れたりします。この様に著しく外観を損ねるためクレームになります。

生地での滑脱防止対策

 滑脱抵抗力を向上させるためには、以下の方法があります。

1)生地が生産されている場合
・樹脂で固める
 樹脂を使えば、糸が滑りにくくなりますが、欠点として風合いが硬くなります。

・縫製方法を工夫する
 生地の端にロックミシンをかける、縫製の幅を大きくする。また、滑脱防止テープの利用などで、滑脱抵抗力を向上させ、製品として問題がない様にします。

2)生地が試作の場合
① 経糸は変えることができないが、緯糸は変えることができる場合
・緯糸の密度を上げる
 緯糸の密度を上げることは、緯糸の量が増加し、生産効率も落ちると同時に使われる緯糸の糸量も増加しコストアップにつながります。そのため、緯糸密度の異なるサンプルをいくつか作り、滑脱の基準値を満たす最小の緯糸密度で製品化する方法をとります。

② 糸を変えることができる場合
・糸がフィラメント糸であれば、紡績糸にする
 一般的に同じ太さのフィラメント糸を同じ太さの紡績糸にすると滑脱は小さくなります。ただし、生地の外観、風合いも変わってしまいます。
・熱融着糸を入れる
 熱融着糸は、芯鞘構造を持ち、適切な熱をかけると鞘の部分が溶け、周りの糸と熱融着することで糸が滑らないようにします。

滑脱がクレームとなる原因

 生地の状態で、基準値を満たしていても、製品で滑脱が生じる場合があります。この一因として、試験で規定された縫い方と製品での縫い方が異なるためです。そのため、必ずしも試験結果に対応しないのです。試験でその生地の滑脱抵抗力(滑脱の程度)を評価できていますが、製品の評価はできないのです。他の試験(例えば、染色堅ろう度)ではあれば、生地に問題がない場合は、製品でクレームが生じることはほとんどありません。これに対して、生地に問題がない場合でも、製品でクレームになってしまう事が滑脱ではありえます。
 これは生地を作る(設計)人と服を作る(設計)人が異なるために生じる問題かもしれません。生地の滑脱抵抗力に問題があっても、その欠点を補うように製品化すれば問題はありません。逆に、生地の滑脱抵抗力に問題がなくても、適した製品仕様でないとクレームが発生することがあります。

製品での滑脱防止対策

 滑脱が生じる原因は、糸と糸の抵抗が少なくなり、糸が抜けやすくなることです。そのため、縫い糸は、フィラメント糸でなく紡績糸を使用することが効果的です。

製品での滑脱クレーム例

 また、以下のケースでクレームが発生することが多いので注意が必要です。
①縫い代が少ない:縫い代が少ない場合は、糸と生地の摩擦が弱くなり抜けやすくなります。

②糸を傷つけた:糸が切断され、糸が縮み、糸と生地の摩擦が弱くなり抜けやすくなります。特にスパンデックを含む糸は、大きく縮むため、クレームにつながりやすい。

③糸を滑りやすくした:生地の柔軟加工をした場合、消費者が洗濯時に過剰の柔軟剤を使用した場合、糸が滑りやすくなり、滑脱が発生します。後者の場合、柔軟剤を除去するために、柔軟剤を使用せず、再洗濯すると滑脱が生じなくなる場合もあります。

初稿2016/12/31