糸をほぐすということ
紡績糸とフィラメント糸の判別方法は、「糸の表面を観察して、毛羽が見えるものが紡績糸」と言われていますが、紡績糸の撚りをほぐし、糸が抜けることを確認することが必要です。この糸が抜ける感覚は実際にやってみて、理解する必要があると思います。(面白いように糸がすっと抜けていきます。)
紡績糸の判別方法
紡績糸の判別方法は、糸を抜き取り、半分に切ります。そして、その一方の端を握り、逆の手の指先で撚りをかけるようにします。つまり、一方向にねじっていきます。この作業で、撚りがほぐれれば、紡績糸です。撚りがほぐれず、撚りが入ってしまう場合は、残った一方を前回とは逆の方向に同様にねじっていきます。この作業で、撚りがほぐれれば、紡績糸です。これは、最初は糸と同じ方向に撚りをかけ、糸がほぐれず、次は糸と違う方向に撚りをかけ、糸が解れたことになります。2回とも撚りがほぐれず、撚りが入ってしまう場合は、紡績糸ではありません。
「糸の構造に関する用語」
ここで、理解を深めるために「糸の構造に関する用語」を表にまとめます。
糸の構造に関する用語(JIS L 0104より抜粋)
用語 | 意味 |
単糸 | 次の一つから成る繊維素材の最も単純な連続な束。 ①多くの不連続な繊維を撚りによって固定したもので,紡績糸という。 ②1本又はそれ以上のフィラメントから成るフィラメント糸。 (1本のフィラメントから成る糸をモノフィラメント糸、撚りをかけた2本又はそれ以上のフィラメントから成る糸をマルチフィラメント糸という。) |
引きそろえ糸 | 一緒に引きそろえ、加撚しないで2本またはそれ以上の単糸からなる糸。 |
もろより糸 | 1回の合糸操作で2本又はそれ以上の単糸を撚り合わせて作った糸。 |
双糸 | 2本の単糸を一緒に加撚して作ったもろより糸。 同じ単糸を撚った糸。通常、単糸のより方向と逆向きに撚る。 |
三子糸【みこいと】 | 1回の合糸操作で3本の単糸を一緒に加撚して作ったもろより糸。 |
用語の説明補足:「単糸」は基本的な単位で、紡績糸、フィラメント糸ともにあります。これを複数集めると、「引きそろえ糸」か「もろより糸」になります。この区別は、「引きそろえ糸」は撚りをかけないのに対し、「もろより糸」は撚りをかけます。
補足:上記の様にJISで「双糸」が定義されていますが、同じ様な糸を諸糸【もろいと】という言い方もあります。これら「諸糸」と「双糸」は同じ意味で使われていますが、使い分ける場合があります。その場合は、「諸糸」は長繊維(フィラメント糸)に用い、「双糸」は短繊維(紡績糸)に用います。つまり、長繊維を2本撚った場合は、「諸糸」。短繊維を2本撚った場合は、「双糸」と呼び分けます。
「撚りに関する用語」
また、ここで、理解を深めるために、「撚りに関する用語」を表にまとめます。
撚りに関する用語
用語 | 意味 |
加撚 | 糸に撚りをかけること。 |
合糸【ごうし】 | 糸を合わせること。 |
合糸操作 | 糸を合わせる工程。ただし、この工程で弱い撚りが入ることもあります。 |
撚糸 | 糸に撚りをかけること |
合撚【ごうねん】 | 複数の糸を合わせて、撚りをかけること。 |
補足:撚りをかける機械を一般に「撚糸機」と言っていますが、「撚糸機」と「合撚機」を使い分ける場合もあります。この場合、撚糸機は、1本の糸に撚りをかける機械。合撚機は、複数の糸を合わせて撚りをかける機械となります。当然ですが、合撚機でも1本の糸で用いれば、機構的には撚糸機ということもできます。
双糸と三子糸
紡績糸の判別方法の章で、「紡績糸ではありません」との表現にした理由は、「紡績糸ではない=フィラメント糸」ではないからです。この方法が基本ですが、単糸の場合しか判別できません。紡績糸は、単糸で使うことが少なく、2本の単糸を撚り合わせた糸(双糸)や3本の単糸を撚り合わせた糸(三子糸【みこいと】)で使われることがほとんどです。その理由は、単糸では強度が弱いことや、糸が抜ける危険性が高いからです。
そのため、まずは糸をほぐし、単糸であるかを調べることになります。前述の様に一方向にねじっていくと、糸の撚りがほぐれず、糸が2本または3本に分かれる状態になります。
この様に糸が分れたら、はり*)を間に入れ、糸を分離します。次にこの分離した糸が紡績糸であるか判別していきます。
「はり」(「分解針」とも言う)こちらも参考に
糸をほぐさないで、紡績糸か推測する方法
糸の撚りをほぐさず、紡績糸であるかを推測する方法もあります。糸を抜き出すことができない場合などに用いますが、あくまで推測です。
素材から推測
・綿、麻、毛は紡績糸のみ
・素材がアクリルであり、衣服であれば、紡績糸。
アクリルには長繊維もありますが、ほとんどが資材系です。
また、注意したいのは、レーヨンです。これは、紡績糸(短繊維)でもフィラメント糸(長繊維)でも使用します。さらに、同じ生地の中でも、両方を使用することさえあります。
用語から推測
・絹は、光沢がない場合や、「紬」と書いてあれば紡績糸
具体的には、紬、特絹紬糸、絹紬糸など。
アイテムから推測
・素材がポリエステル65%、綿35%であり、ニット生地であれば、紡績糸。
上記の混率の紡績糸(混紡糸ともいう)は定番として使用されます。この糸は、寸法安定性があり、静電気が起こりにくい組み合わせです。ニット生地の場合は大半が1種類の糸で編むことが多いので、この定番の紡績糸を使用したと推測します。織物の場合は、経糸にポリエステル、緯糸にポリエステルと綿ということもありうるので、推測からは外しています。
紡績糸の判別方法 まとめ
「紡績糸の判別方法は、糸の表面を観察して、毛羽が見えるものが紡績糸」という理解でいいのですが、撚りが強い糸や双糸などでは毛羽が少なくなり判別がしにくくなります。前述の方法で、糸をほぐしてみれば、判別できるようになります。
初稿2022/02/06