番手の使い分け
番手には、綿番手、毛番手、麻番手など1)があります。これらは素材ごとに使い分けますが、長繊維を原料とした紡績糸や混紡糸などはどの番手を使うのでしょうか?
1)ミシン糸などに用いられるカタン番手は省略します。
綿番手と毛番手
綿番手は、綿糸の他にレーヨン紡績糸、ポリエステル紡績糸、ポリエステル綿混紡糸などに使われます。毛番手は、毛糸の他にアクリル系紡績糸などに使われます。
さらに毛番手は、メートル単位を用いているため、番手を統一する意味があり、海外では使われています。この場合、毛番手と定義は同じなのですが、「共通番手」や「メートル番手」と呼びます。この様に、繊度の表示が綿番手か毛番手かの区別がつきにくい状態です。
絹紡糸の番手
絹紡糸(【けんぼうし】:絹の紡績糸)の番手表示は複雑です。日本では、綿番手が使われています。しかし、海外では毛番手が使われています。国内用には、綿番手で表示される糸(綿番手で表示するとキリの良い数字になる規格3))が生産され、輸出用には、毛番手で表示される糸(毛番手で表示するとキリの良い数字になる規格4))が生産されていました。
3)例えば、6 , 8 , 10 , 12 , 14 , 15 , 16 , 18 , 20 , 22 , 24 , 30 , 32 , 36 , 38 , 40 , 42 , 44 , 50 , 55 , 60 , 80 , 100 , 120 , 140など
4)例えば、32 , 42 , 48 , 52 , 64 , 72 , 80など
絹紡糸の生産
しかし、日本で絹紡糸が生産されなくなり、日本のために綿番手で表示される糸を海外で生産させ、その糸を輸入し販売していました(2003年ごろまでと記憶しております。当時の資料を探してみましたが見つかりませんでした)
さらに最近では、ホームページなどを見ると、毛番手に統一されています。綿番手で表示される糸は生産中止になった様です。
文献などは、その当時使っていた番手で表記されていますので、どちらの番手で表記していたか注意が必要です。
英式番手と仏式番手の競い合い
この2つの番手については、綿番手は英式番手、毛番手は仏式番手とも呼ばれ、まるで、イギリスとフランスが競い合っている様です。『英』はイギリス、『仏』はフランスのことで、国の名前を漢字一文字で表すときの表記です。古い文献にはこの様な表記を使うことがあります。
種類 | 別名 | 省略記号 | 原料(短繊維の場合) | 原料(長繊維の場合) |
綿番手 | 英式番手 | EC Ne NeC | 綿 | ポリエステル 絹(一時期、日本での場合) |
毛番手 | 仏式番手 メートル番手 共通式番手 共通番手 | MC NM Nm | 毛 | アクリル 絹 |
麻番手 | NeL | 麻 | – |
イギリスとフランス 王国と共和国
イギリスとフランスは対照的です。地理的条件では、イギリスはヨーロッパ大陸に隣接した島国。一方、フランスはヨーロッパ大陸の内陸国。また、イギリスの正式な名称は、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」、フランスの正式な名称は、「フランス共和国5)」です。この様にイギリスは、国王(女王)がいますが、フランスは共和国なので、王様がいません。また、イギリスは、最近までポンドやヤード6)という古い単位を使用していましたが、フランスは、人工単位であるメートル7)を提唱した国です。つまり、フランスは、王を追い出し、人工的な単位を提唱しており、イギリスの「逆」をやっているのです。
5)「共和国」:君主(王様、帝)を置かない共和制を体制としている国のこと
6)1ポンド=453.59237g、1ヤード=0.9143993メートル
7)メートル:もともとフランスが提唱した単位であり、その時の定義が、「地球の北極から赤道までの子午線の距離の1千万分の1を1メートル」でした。その後、メートルの定義は真空の光の速さを元にした定義に変更されています。
「仏式」の語源?
「共和」というのは、もともと中国語で、中国で国王のいない期間に由来します。当時の日本人は、共和国とは、国王のいない国とイメージができたということです。
また、「メートル」を提唱したのはフランスであり、仏式番手の「仏式」には、「フランスの」という意味よりも「メートルが基準」ということを連想させて使っていたのかもしれません。
中級 初稿2021/07/04 改正2021/11/25
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